メジャーリーガーの大谷選手の元通訳の方の横領であらためてお金の管理について考える機会になりました。
中小企業における社員の横領はけっして少ないものではありません。
特に中小企業においては少ない社員で様々な権限を兼ねている事が多いうえにそれが長期間続くので横領が発声し易い環境です。
今回は、中小企業において横領を防ぐにはどうしたらいいか?考えてみました。
権限や責任の明確な分離がされていない
権限や責任の明確な分離が行われていないことは、横領などの不正リスクを高める大きな要因となります。
具体的には、次のような問題点が考えられます。
ある従業員が、現金や商品の出納、販売、仕入れ、在庫管理などの一連の業務を一手に担当している場合、不正を働く機会が増えてしまいます。
例えば、現金を私的に着服しても、帳簿上は適切に処理されているように見せかけることができてしまうのです。
また、上長の承認なしに資金の支出や契約が行えるような、広範な権限を個人に付与していると、不正の温床になりかねません。
支出決裁の最終権限を1人に集中させてはいけません。複数の関係者によるクロスチェックが必要不可欠です。
さらに、業務とプライベートの区分けが曖昧なまま放置されていれば、会社の資産を私的に流用するモラルハザードが生じる恐れもあります。
企業として、従業員に対して、業務と私事の明確な線引きを求めることが重要です。会社の資産を私的に利用することは横領に該当する可能性があることを、徹底して教育する必要があります。
このように、権限と責任の分離は、不正を未然に防ぐための牽制機能として欠かせません。各業務について、出納、販売、仕入れ、在庫管理などの役割を複数の従業員に分散し、適切なチェック体制を構築することで、不正のリスクを最小限に抑えることができます。
中小企業では人員が限られがちですが、できる限りの分離を心がける必要があります。
現金や有価物の適切な管理体制が整備されていない
現金や有価物の適切な管理体制が整備されていないと、横領のリスクが高まります。具体的には以下のような問題点があげられます。
まず、現金や商品を適切に保管する場所が用意されていない場合があります。現金を簡単に持ち出せる状態では、従業員が不正に流用するチャンスが増えてしまいます。
現金や有価物は必ず施錠可能な金庫や保管庫に納め、鍵の管理者を限定する必要があります。
また、現金や商品の出納記録が適切に行われていないケースも多々見受けられます。
出納簿を作成せず、ただ現物を扱うだけでは、いつ誰が何を持ち出したかが特定できません。この記録作成を徹底し、責任者による確認を義務付けることが重要です。
さらに、在庫の定期的な棚卸しが行われていないケースも問題視されます。実際の現物数量と帳簿上の数量に乖離があれば、その間に不正が行われた可能性が高くなります。
適切な時期に棚卸しを実施し、乖離がある場合は原因を突き止める必要があります。
このように、現金や有価物の適切な保管、出納管理、棚卸しなどの体制が整備されていないと、横領のリスクが高まってしまいます。
中小企業では手薄な傾向にありますが、コストをかけてでも管理体制を強化することが不可欠です。
従業員に対する監視体制が不十分
従業員に対する監視体制が不十分であると、不正行為のリスクが高まってしまいます。具体的には以下のような問題点が考えられます。
まず、業務中の従業員の行動を適切に監視する体制が整っていない場合があります。
例えば、現金を扱う従業員1人だけで業務を行っている状況では、不正な現金の着服が行われても気付くことができません。できるだけ複数の従業員で業務を行い、互いに牽制し合える体制を整備することが重要です。
また、従業員のパソコン利用状況や入退室記録などを管理する体制が不十分な企業も多くあります。
私的な目的でインターネットを長時間利用したり、不審な出入りを繰り返したりすれば、不正な行為の兆候と見なすことができます。こうした行動を監視し、必要に応じて注意を促す仕組みが必要不可欠です。
さらに、従業員の私生活上の問題まで目を向けていない企業も少なくありません。借金があり金策に窮している従業員、ギャンブルなどの癖がある従業員には、横領のリスクが高くなる可能性があります。定期的な聞き取り調査を行うなどして、従業員の生活実態を把握することも重要です。
このように、従業員の業務行動や私生活までをきちんと監視する体制を整備しないと、不正リスクが高まってしまいます。プライバシーの観点から過剰な監視は避ける必要がありますが、一定の監視は不可欠です。中小企業では人員が限られるため、ITツールの活用などによる効率的な監視体制の構築が求められます。
コンプライアンス意識や企業倫理の教育が不足している
コンプライアンス意識や企業倫理の教育が不足していると、従業員の不正行為につながるリスクが高まります。具体的には以下のような問題点が考えられます。
まず、法令や社内規程を守ることの重要性が従業員に浸透していない場合があります。単に「ルールは守れ」と言うだけでは不十分で、なぜそれらのルールが設けられているのか、違反した場合にどのような問題が生じるのかを丁寧に説明する必要があります。ルールの背景や意義を理解できれば、自発的にコンプライアンスを実践しようという意識が芽生えます。
また、企業が追求すべき基本的価値観が従業員に共有されていないケースも多くあります。例えば「お客様第一主義」「公正な取引の重視」「社会的責任の遂行」などの企業倫理が明確に定められておらず、従業員一人ひとりの価値観や判断に委ねられがちになっています。こうした企業理念の浸透こそが、不正を抑止する大前提となります。
さらに、コンプライアンス違反や不正行為を見過ごす企業風土も問題視されます。上司や同僚が不正を働いているのを知りながら黙認したり、自分も同調したりする状況では、企業倫理が形骸化してしまいます。不正を憎む明確なメッセージを経営陣から発信し、相互の牽制機能を高める必要があります。
このように、従業員一人ひとりの高いコンプライアンス意識と企業倫理の徹底が、不正防止の鍵を握っています。中小企業においても、継続的な教育研修の実施や、社内の意識改革に努める必要があります。
まとめ
中小企業は人員が限られ、権限と業務が集中しがちなため、不正リスクが高くなる傾向にあります。
そのため、内部統制の強化は中小企業にとって特に重要な課題といえるでしょう。
例えば、現金や商品の出納から在庫管理まで、あらゆる業務を一人の従業員に任せてしまうと、その人物に大きな権限が集中し、横領の温床となってしまいます。関連業務を複数の従業員で分担し、お互いにチェックする体制を整備することが不可欠です。
また、中小企業では現金や有価物の管理が手薄になりがちです。施錠可能な金庫への保管、出納記録の徹底、定期的な棚卸しなど、適切な管理体制を構築しなければなりません。さらに、従業員の行動監視やプライベートまでを幅広く注視する必要があります。
加えて、ルールの重要性や企業倫理を繰り返し教育し、高い倫理観を従業員に根付かせることも重要な課題です。経営陣のメッセージと社内の相互監視体制も重要です。
このように、中小企業においては、人員と資源が限られているからこそ、内部統制の強化と企業風土の改革に注力し、横領リスクを最小限に抑える取り組みが欠かせません。