経営者として、社会保険労務士(以下、社労士)と付き合うことはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
社労士は、人事や労務管理に関する専門家です。彼らは、経営者の悩みを解決するために、法律や制度の知識を活用してアドバイスやサポートを提供します。
しかし、社労士と付き合うことは、経営者にとって本当に良いことなのでしょうか?この記事では、経営者が社労士と付き合うメリットとデメリットについて7つの観点から考えてみます。
目次
メリット1:法令遵守がしやすくなる
社労士に労務管理をアドバイスしてもらう最大のメリットは、法令遵守がしやすくなる点です。
社労士は労働基準法を始めとする最新の労務関連法令に通じており、人事労務に関する法的知識が豊富です。
たとえば、企業が新規採用や解雇を行う際、契約書の作成方法や手続きの流れなど、法令上の注意点は多岐にわたります。
社労士なら、過去の類似案件に基づいたノウハウから、法的リスクの少ない対応策をアドバイスしてくれます。
また、賃金体系の見直しや労働時間制度の変更など、より戦略的な人事施策を検討する際にも、社労士の法令面からの助言が不可欠です。
期待する施策の効果と法違反のリスクを天秤にかけつつ、最適な政策を立案することができるでしょう。
このように中小企業経営者が社労士と連携することで、トラブル予防も含め、人事労務管理全般において法令遵守が大きく前進させることができます。
メリット2:経営者が本来の業務に専念できる
社会保険や労働保険などの手続きを社会保険労務士に任せることで、中小企業にとって大きなメリットがあります。
具体的には、社会保険の適用拡大申告や脱退届の提出、被保険者資格の取得や喪失の届出、保険料の納付など一連の手続きが社労士に委ねられるので、企業にとって事務作業の大幅な負担軽減につながります。
また、労働保険についても、各種届出は複雑でミスが発生しやすいうえ、法改正などで要件が変更になることがあります。社労士に手続きを任せれば、法改正などの最新状況を反映した適切な対応が可能となり、自社でフォローする手間が省けるほか、トラブルリスクも回避できます。
これらの労務管理業務を経営者が手放すことで、経営者は本業の業務に集中することができるので、中小企業の成長につながります。
メリット3:労務トラブルを未然に防げる
社労士から法令違反のリスクに関するアドバイスを得られることは、労務トラブルの未然防止に大きなメリットがあります。
社労士は人事労務管理のプロであるため、法令の内容を熟知しているだけでなく、過去の類似事例から蓄積した経験とノウハウを有しています。
そのため、たとえば賃金大幅引き下げなどグレーゾーンな人事施策を検討している場合、そこに法令違反のリスクが内包されているかどうかを的確に判断して指摘してくれます。
また、企業としての方向性に対する理解の上に立ち、実効性の高い解決策を柔軟な形で提案してくることが期待できます。
もちろん、既に法令違反が発生してしまったケースにおいても、事実関係の迅速な確認と適切な対応策の提言を通じて、業務への影響を最小限に食い止めるなど、スムーズなトラブル収拾を支えてくれます。
メリット4:法令順守体制が整備・強化される
社労士に定期的な法令遵守のチェックと指導を受けることで、企業の法令順守体制が整備・強化されていきます。
具体的には、社労士が年2回程度、採用、解雇、賃金決定、労働時間・休日管理等の主要な人事労務プロセスについて法令遵守状況の総点検を実施します。
点検時に法令違反の状況が発見された場合、直ちに違法状態の改善指導が行われるほか、再発防止のためのシステム面の提案も併せて行われることが多いです。
こうした定期的なチェック&指導を受けることで、使用者側に労務コンプライアンス意識が自然と醸成されていきます。
単なる表面対応ではなく、法令を順守するための企業文化・組織体質が着実に定着していくことが期待できるのです。
業務プロセスに法令遵守の視点を織り込む自律的な仕組みづくりが、社労士との連携を通じて実現できます。
デメリット1:コストがかかる
社労士に労務コンサルティングや手続代行などを依頼した場合、一定の報酬を支払う必要があります。中小企業にとってこれが負担になる側面があることは否めません。
社労士の報酬は、基本的には担当する業務内容と時間に応じて決定されます。例えば月1回の就業規則の点検や資格取得時の各種届出代行は比較的安価ですが、労使交渉への同行支援や賃金体系の全面見直しなど大型の業務依頼場合は高額な報酬となります。
ただし、その結果として法令遵守や業務効率化で得られるメリットを考えれば、投資としての側面が強いともいえます。
自社のリスク管理体制の確立などにもつながる中長期的な視点で、社労士活用のコスト対効果を判断することが大切だと考えます。
デメリット2:中小企業に特化した知見がない社労士もいる
中小企業では大企業と比べて、労働時間管理が緩やかだったり、取引先との人的交流が密だったりするなど、労務管理上の特殊な慣習が色濃く残されている場合が少なくありません。
そのため、中小企業専門の社労士でないと、使用者側の実情に即した適切なアドバイスが提供できない場合があると言えます。
例えば、大手自動車メーカー出身の社労士が中小の下請け工場の労務指導を行うことを想定してみましょう。
工場長と社員が気軽に行き来している風通しの良い現場文化に配慮せず、大企業並みの労使分離を要請すれば、現場は混乱を来す可能性があります。
こうした事例は他にも枚挙に暇がないほど存在し、中小企業現場に即した助言能力が社労士には特に求められる領域だと言えるでしょう。
労務コンサル契約を検討する際は、中小企業知見の豊富さも重要なポイントの一つとして見極める必要があるでしょう。
デメリット3:自社の人事権限が制限される面もある
社労士との連携が深まるにつれ、中小企業の人事権限が相対的に制限されていく面があることは否定できません。
特に使用者側に労務管理の専門知識が乏しい場合にこの傾向が顕著です。
例えば、新規採用の人選では、社労士から提示された複数の法的観点をクリアした候補者リストの中から選択せざるを得なくなります。
人物本位の採用権限が制約される結果となりかねません。
また、社員の定期異動のタイミングで、社労士が助言する労基法上の「不合理な労働条件変更」に抵触しない範囲での配置転換を余儀なくされることもあるでしょう。
こうした例に見られるように、社労士という労務管理の専門家を企業内に置くことに伴い、人事担当者の裁量権が相対的に後退せざるを得ない側面が出てくると言えます。一定の覚悟が使用者側には必要でしょう。
まとめ
中小企業経営者は皆様、社労士との連携を考えている人も多いでしょう。
社労士は労務管理のプロフェッショナルですから、その助言を借りれば法令遵守はもちろん、採用・配置・賃金制度といった人事施策もスムーズに運用できるメリットが大きいです。
一方で、報酬の発生や人事権限の相対的後退といったデメリットの存在も否定できません。ただし、社労士依存や過剰介入を避けることで、デメリットはある程度抑えられます。むしろ法令順守によるリスク回避の安心感の方が大きいはずです。
中小企業こそ少人数で労務管理機能を完備させることは難しいです。外部人材である社労士を上手く利用することが効率的な運営の近道であることを実感していただけるはずです。
将来の事業承継まで見据えた長期的な観点から、社労士とのコラボレーションを強くおすすめします。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。